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小説同人誌のレイアウト

小説同人誌の読みやすさや手に取ってもらいやすさってなんだろう?ということを考えてみます。

頒布する側としては『ぎっちり文字を詰めた方がお得感がある』とか『小さめフォントで行間も詰めた方がページ数が少なくて印刷費も安くなる』と考えがちな気がします。

商業書籍でも、古い文庫本はかなり小さな文字で組まれているものがあります。手軽に確認できるものとしては、岩波文庫がそうですね。図書館にもよくあるし、書店に置いてある新本でも古いのは版が古いままなので驚くほど小さな文字でぎゅっと組まれています。
早川書房の古い文庫もかなり小さな活字ですが、こちらは文庫の判型ごと数年前に少し大きくなって、それに合わせて改定再版されたものが流通しているので、図書館や古書店で古いものを見てみると近刊との違いがはっきりわかります。

昔の本、特に文庫本の活字が小さかったのは、文庫本には廉価版の普及本という意味合いがあって、大判の本として出した全集や名著を誰でも手に入れて読むことができるよう安く小さな判型で出版しなおしたのが文庫本だったので、なるべく1ページにギュッと文字を詰め込んでページ数を少なく、より安くとデザインしたもののようです。

つまり、読みやすさは二の次のエコノミーサイズが昔の文庫のぎゅうづめデザインなのです。
それはそれで美しさのあるデザインですが、読みやすさを犠牲にしているというのは気にしたいポイントです。

一方、現代の商業小説はわりとフォント大きめ、行間ゆったりめのものが多いようです。
電子書籍のリーダーで行間を一番詰める設定にしても、古い文庫慣れしていると「あれ?これで一番狭いの?すかすかでは?」と思うことがありますが、読みやすさという点でいえば最近のデザインの方が圧倒的に理があると感じます。
決して私の目に老いが来ているからではなく……

 

小説本で使うフォントのサイズは、だいたい8pt~10ptくらいが一般的です。
級数でいうと11Q~14Qくらいでしょうか。もちろん、それより大きくても小さくても同人誌は製作者の好きなように作ってしまえばいいのですが、小説の体裁でこれより大きかったり小さかったりすると、文章として読むのがしんどいと感じる人も多くなってくるのではないかと思います。

本の四方の余白も、あまりぎっちり詰まっていると読みにくく感じます。
昔、とあるBLレーベルの新書本でものすごく余白の少ないものがあったのですが、上下は視線を動かすたびに余計なものが視界に入って集中力が途切れるし、ノド側(本の中心、糊付けされて左右ページがくっついている部分)があまりにも内側まで入り込んでいると本を力いっぱい開かなくてはいけないし、小口側(本の外側)余白が少なすぎると本を持っている自分の手が邪魔が文章が見えづらく、手の位置をせわしなく変えなくてはならないのでとても読みづらかったのです。
小口側には親指を置けるくらいの余白があると快適です。ノド側はそれにプラス本の厚みにもよりますが、5mm程度多くないと読みにくく感じました。
あのレーベルの本を読みやすいといっている人を見たことがなかったので、世間的には読みにくいデザインだったんじゃないかなぁ?と思います。

段組に関しては、「人間が一度に認識することのできる文字は平均8~10文字程度」で、あまりに長い文字列は視線を動かして読んでいかなくてはいけないのでパッと頭に飛び込んでこない、という話を聞いたことがあります。
この2倍くらいの文長で行頭を基準に前半を見て、視線を少し動かして行末まで確認して「1行を2塊として見る」のは見やすいけど、それより長くなって尺取虫のように読んでは進んでを繰り返すとどこまで読んだかわからなくなりやすいということだそうです。

本のサイズによってはどうしても上下が長くなってしまうので、そういう時には位置ページの中でカラム(段)を作って、二段組や三段組として読みやすい長さの文長で行を作るレイアウトにするわけですね。
段組みレイアウトにも好き嫌いはあると思いますが、上述のような理論に基づけば新書やA5本での長すぎる一行は快適な読書には向かないと感じる人もいる、ということでしょう。

セリフが多めで短いフレーズで改行を多用する作風の時は特に、二段組みにすると余白がぐっと削減できて白くてスカスカな本という印象がなくなったりということもありますね。
逆に、あまり改行がなく一パラグラフが長い作風の場合は二段組みにするとページが増えてしまったり、文字がぎっしりすぎて読みにくくなる、ということもあるようです。

字間については(設定できないソフトも多いですが)、それぞれのフォントがデフォルトで持っている字間設定が一番読みやすくきれいに見えるので、小説の時には触らないのが一番だと思います。触るとしたら数字やカタカナが頻出するときのバランス調整くらいですね。

 

小説の字組に関しては、商業小説で自分が読みやすいと思うものを定規で測って模倣するのが一番確実じゃないかと思っています。
作風によってちょっと詰まり気味の方が映える(ミステリみたいなかっちりしたお話とか)文体や、ちょっとフォントも大きめ行間開き目の方が映える(童話っぽいゆるファンタジーとか)お話とかあるので、自分の作風に合わせてレイアウトするのが良いと思います。

PDFで入稿するときは、しっかりフォント埋め込みを行えば(縦書きに非対応で表示がおかしくなってしまうような一部のフォントを除けば)どんなフォントを使っても大丈夫なので、作風に合わせてフォント選びも楽しめると思います。
近頃は漢字も大量に持った日本語フリーフォントもたくさんあるので、色々探してみると面白いかもしれません……が、個人作成のフリーフォントでは意外な文字が未実装だったり中心が定まっていなくて縦書きにしたとき列が揺らいで見えたり、落とし穴があることもあるので、目新しいフォントを使った時にはプリントアウトして全体をくまなく確認することが必要です。

 

何作か作ってみて自分の作風にしっくりくる字組デザインが出来たら、テンプレートとして保存しておくのが良いですね。
環境が変わってそのテンプレートが使えなくなっても、出力結果が手元にあれば新しい環境で近いデザインを再現するのも難しくはありません。

年数がたつと、これフォント小っちゃいなー!?と思う日が来るかもしれませんが!